当記事では、相続税の負担を軽減する「節税対策」と、納税に必要な資金を確保する「納税資金対策」に関する基本的な方法を解説します。これらの対策を適切に組み合わせることで相続人の負担を軽減し、円滑な相続を実現できるでしょう。
基本的な節税対策
相続税の節税対策は、生前に計画的に進めることで大きな効果を発揮します。特に生前贈与や生命保険の活用は比較的取り組みやすい基本的な手法としてよく知られています。
そのほかの効果的な節税方法についても併せてここで解説していきます。
生前贈与で相続財産を減らす
生前贈与をすることで将来の相続財産を計画的に減らすことができます。もっとも基本的な節税方法でもあり、複数の制度を組み合わせて贈与を行うことでより大きな節税効果を得ることができるでしょう。
以下の表で、主な贈与の方法とその特徴を確認しておきましょう。
贈与方法の例 | 特徴 |
---|---|
① 暦年贈与 |
・一度の贈与では効果は小さいが、基礎控除額(年間110万円)の範囲内で継続的に贈与を行うと徐々に効果は大きくなる。 ・毎年決まった額を定期的に贈与している場合、まとめて一括贈与と評価され課税を受ける可能性がある。 |
② 相続時精算課税制度に基づく贈与 |
・相続開始まで通算2,500万円(特別控除額)を超えなければ贈与税は課税されず、相続税の課税で処理する。 ・年間110万円の基礎控除が適用可能で、暦年贈与と同じ節税効果が得られ、生前贈与加算の対象にもならない。 ・手続きが必要。 ・60歳以上の親から18歳以上の子または孫などへの贈与でなければ適用できない。 |
③ 教育資金の一括贈与 |
・学費支援などの目的で贈与をする場合、1,500万円まで一括で贈与をしても非課税にできる。 ・手続きが必要。 ・受贈者が30歳未満の孫等でなければならない。 ・実際に支払いをしていない部分には課税がある。 |
④ 結婚・子育て資金の一括贈与 |
・結婚や子育て資金のために贈与をする場合、1,000万円まで一括で贈与をしても非課税にできる。 ・手続きが必要。 ・受贈者が18歳以上50歳未満の子または孫等でなければならない。 ・実際に支払いをしていない部分には課税がある。 |
①と②については単発で大きな節税効果が得られるものではありませんが、汎用性が高く計画的に取り組めば大きな節税効果を得られることもあります。
③と④については利用できるシチュエーションが限られており、手続きの手間などもありますが、その分大きな節税効果を得ることができます。ほかにも贈与税の負担を軽減する特例はありますので税理士に相談しながら最適な方法で生前贈与を進めると良いでしょう。
生命保険の活用
生命保険は相続税を節税するうえでとても有益なツールとなります。
相続開始後に支払われる死亡保険金は相続税の課税対象ですが、「法定相続人1人につき500万円まで」が非課税になります。つまり、法定相続人が被相続人の妻と長男・次男の3人だとすれば、1,500万円の保険金を受け取っても相続税がかかりません。
ただし死亡保険金は、「保険料負担者」や「被保険者」、「保険金受取人」の設定の仕方によって相続税ではなく所得税や贈与税が課税されることもあるため契約時に注意が必要です。
相続税の課税対象になるには、被保険者および保険料負担者が被相続人でなければいけません。被保険者が被相続人でも、保険料負担者および保険金受取人が同一人物のケースだと所得税が、保険料負担者と保険金受取人が別人のケースだと贈与税が課税されます。
小規模宅地等の特例が使えるようにする
相続税の計算をするとき、土地の相続税評価額に関して「小規模宅地等の特例」が使える可能性があります。これは相続税の負担を大きく軽減する可能性を持つ特例で、特定の要件を満たす土地なら評価額を最大で80%も減額することが認められます。
相続開始前に適用の手続きを行うわけではありませんが、適用要件を満たすよう備えておくことが将来の相続対策につながります。
基本的には「被相続人との同居」が必要となりますが、状況によっては別居をしていなくても被相続人に配偶者がおらず相続人が持ち家を持っていない場合には適用できるケースがあります。
ほかにも、宅地としての利用ではなく事業に使っている土地であっても適用を受けられるケースがありますので、要件を確認しながら対策を考えていくと良いでしょう。
不動産の有効活用
現金預金が多く残っているときは、不動産の購入も考えてみましょう。現金等は額面のままで相続税の計算を行うことになりますが、不動産として形を変えることで購入価格より小さな相続税評価額とすることができます。
さらに当該物件を賃貸に出すと、より節税効果を高められます。賃貸に出すと当該物件を100%自由に扱うことができなくなりますので、相続税評価額の算定においても入居者の持つ権利分を差し引いて計算することができるためです。
養子縁組による法定相続人の増加
法定相続人が増えると相続税の基礎控除額が増加し、課税対象となる相続財産を減らすことができます。具体的には[3,000万円+600万円×法定相続人の数]で基礎控除額は算出されますので、養子縁組によって法定相続人が1人増えると600万円分が非課税で取得できることになります。
さらに、孫を養子にすることで一世代飛ばした資産承継が可能となりますので、相続税の課税機会を一度減らせるという点でも節税効果が期待できます。
※祖父母から孫への相続であるなど関係性が離れてくると「税額が2割加算される」というルールが適用されることには留意すべき。
ただし、養子縁組による節税対策には一定の制限があります。相続税法上、養子は最大でも2人まで(被相続人に実子がいるときは1人まで)しかこの計算に含めることができないのです。また、養子縁組は家族関係に大きな影響を与えることになるため、節税効果だけに目を向けず人間関係などにも配慮して慎重に判断してください。
基本的な納税資金対策
納税資金の不足が原因で、思わぬ資産の売却、借入を強いられることになるかもしれません。そのため税額を下げることだけでなく、相続人が相続税を支障なく納付できるように備えることも重要です。この納税資金対策の基本についても確認しておいてください。
生前贈与で納税資金に備えてもらう
生前贈与は、相続税の節税対策としてだけでなく、納税資金対策としても有効です。
現金などそのまま納税資金として使えるものを贈与しておくのも良いですし、配当金や家賃収入など定期的に収入が発生する財産を贈与しておくのも効果的です。
現金や預貯金の割合を増やす
相続財産の構成を見直し、現金や預貯金の割合を増やすことで、相続人に現金の負担がかかるのを回避することができます。
不動産や貴金属などの動産は、相続後に売却しようとしてもすぐに買い手が見つかるとは限りません。そこで、残したい物と売却する物を区別し、計画的に売却手続きを進めておくと良いでしょう。
換金性の高い資産の保有
現金や預貯金以外にも、上場株式や投資信託などの換金性の高い資産を保有することも有効な対策です。これらの資産は現金ほど直接的ではないものの、比較的すぐに現金化が可能です。そのため納税資金としても活用しやすい資産といえるでしょう。
ただし、価値が変動するリスクはあるため、バランスの取れたポートフォリオ管理が欠かせません。
納税資金を考慮した遺産分割
相続人が複数いるときは、遺言書を活用した事前対策、相続開始後の遺産分割協議での対応も重要です。
もし現金を多く残していたとしても、不動産5,000万円、現金5,000万円の財産構成において2人の相続人が現物分割をすると、不動産を取得した相続人は現金を手にしません。この例のように、特に不動産を現物分割する場合には注意が必要です。
換価分割(不動産を売却してその金銭を分け合う方法)で解決することはできますが、売却に時間がかかってしまうという難点があります。
また、代償分割(不動産を取得した方がほかの相続人に金銭を支払って調整する方法)で解決することもできますが、これを実現するには不動産を取得する方が十分な現金預金を持っていなければなりません。
相続人らの協議に委ねることに不安があるときは、遺言書で分割方法を指定しておくことも検討しましょう。
生命保険の活用
生命保険は節税対策になるとともに納税資金対策としても有効です。非課税枠の適用によって相続税の課税を回避しつつ、受取人が現金を取得することができるためです。
賃貸物件の運営
単に不動産を購入するだけでも節税対策にはなりますが、納税資金の観点からはマイナスな面もあります。しかし、収益物件として活用をすることで、その後現金預金を増やすことも可能です。
ただし、空室リスクや管理コストなども考慮したうえで対策を進める必要があります。
生活資金の確保にも配慮して対策を考えよう
節税に躍起になるあまり、現金や預貯金を使い果たしてしまうと、かえって納税資金が不足する事態に陥るかもしれません。さらに、被相続人の生前における生活費のことも忘れてはいけません。相続対策を始めてから実際の相続までに長期間かかることも珍しくありませんので、その間の被相続人の生活を支える資金も考慮に入れる必要があります。
さらに、相続開始後の相続人の生活費についても考慮すべきです。不動産が相続されてもそれを有効活用できなければ意味がありませんし、固定資産税などの負担が発生し続けます。専門家の意見も取り入れながらバランスの取れた対策を考えるようにしましょう。