定款は会社設立にあたりまず取り掛かる重要な作業です。設立後も定款をなくすことはできず、どの会社にも存在するものです。定款の内容を変更するにも株主総会で特別決議が必要になるなど、他の社内規程とは一線を画しています。
なぜ定款はここまで特別扱いされているのでしょうか。ここで定款の重要性を説明し、その定款に記載する事項についても紹介していきます。
定款はなぜ重要か
定款の重要性は、次のようにさまざまな視点から説明することができます。
- 組織の設計や方針を定める存在だから
- 最上位の社内規程として機能するから
- 株主が経営陣の権限を抑制するため
- 取引上の第三者を保護するため
各理由の詳細を事項以下で説明していきます。
組織の設計や方針を定める存在だから
株式会社には、取締役や取締役会、監査役、監査役会、会計参与など、さまざまな機関を設けることができます。
また、株式会社として設立することもあれば、合同会社として設立することもできます。合資会社、合名会社などの会社を立ち上げることもできます。
これら機関設計や会社の種別を決定づけているのは定款です。
定款の作成方法により、株式会社となることもあれば合同会社となることもあります。また、取締役会を設置したいとき、監査役を設置したいときなどにも定款にその旨を記載することでその効力が生じます。
後述する「目的」条項により会社がする事業内容が定まり、権利義務の範囲、あらかたの方針も定まります。
これらの役割は定款にしか認められておらず、会社の骨格作りを担っていることから定款の重要性を説くことができます。
最上位の社内規程として機能するから
会社という組織を適切に運営していくには、さまざまな社内規程・社内ルールを設ける必要があります。代表的なものでいうと就業規則が挙げられます。従業員を雇う場合、就業規則を設けて使用者である会社と労働者の関係性、ルールを明確にします。
その他、賃金規程や文書管理規定など法律上求められているかどうか関係なく、各社が独自にルールを設けることも珍しくありません。
しかし、社内規程として設ければ何でも有効になるわけではありません。定款に定めないと効力が生じない事項もあります。そこで、定款への記載が効力発生の条件とされている事項については定款に記載し、さらにその詳細を別の規程として設ける例もあります。
このように、定款には一般的な社内規程にはない特別な役割が与えられており、もっとも上位に位置する社内規程としての側面も持っています。
株主が経営陣の権限を抑制するため
株式会社は、「所有と経営の分離」という言葉で説明されるように、会社の所有者である株主と経営を担う取締役に役割が分かれています。実際には取締役が株主を兼ねるケースも多いですが、完全に分離することも可能です。その場合、会社を持つ株主が会社経営のプロである取締役に仕事を委任する形で株式会社が運営されます。
取締役も大きな権限を持つため、株主の利益にならない行為、自己の利益だけを考えた行為もできてしまいます。
そこで、定款で取締役を監督する役員を設けたり取締役の選任・解任方法を設けたりすることで、取締役の権限を抑制します。特定の人物が大きな権限を持ち続けられないようにするのです。
定款の内容は代表取締役でも自由に変更できるものではありません。多数の株主の賛成が必要ですので、定款は、株主が経営陣を管理するために重要な存在であると説明できます。
取引上の第三者を保護するため
会社と取引を交わす第三者は、当該会社が定めた定款の内容、登記の内容を信じて契約を交わします。定款に反することは違法であり、厳格な手続を経て規定される定款やその内容を反映した登記を信用することで第三者も法的に一定の保護を受けることができます。
前項の通り株主の権利や利益を保護するために定款が役立つだけでなく、社外の第三者を保護する上でも定款は役立つため、重要な存在であるといえるでしょう。
定款の3種の記載事項
定款に記載できる事項は、下表にある3種に分類することができます。
記載事項の種類 | 説明 |
---|---|
絶対的記載事項 | 定款への記載が必須とされている事項。この事項が1つでも欠けていると定款全体が無効になる。 |
相対的記載事項 | 定款への記載が必須ではないものの、定款に定めることが効力発生の条件となっている事項。設立手続に関する相対的記載事項を特に「変態設立事項」と呼ぶ。 |
任意的記載事項 | 定款への記載は任意であり、定款以外の社内規程に定めても有効となる事項。 |
それぞれの記載事項の詳細を以下に示します。
絶対的記載事項
絶対的記載事項の1つでも欠いていたり、記載内容が違法であったりすると、定款すべてが無効になります。そして会社設立において定款が必須である以上、会社の設立まで無効になってしまいます。
具体的には、会社法第27条第1項各号に列挙されている5つの事項と、同法第37条第1項に規定されている事項の合計6つがあります。
記載内容 | |
会社の目的 | 会社のする事業内容を意味する。 会社の権利義務を画する重要な事項であるが、事業領域を抽象的記載しても基本的に違法にはならない。ただし許認可の取得が必要な場合は記載文言に要注意。 |
会社の商号 | 会社名のこと。 株式会社であれば「株式会社」の文言が必要。その他使えない文字や記号がある点には要注意。 |
会社の本店所在地 | 会社の主たる事業所の場所を記載する。 最小行政区画まで記載する必要はあるが、それ以上詳細に記さなくても問題ない。 |
会社の設立時に出資する財産の価額またはその最低額 | 設立するときの出資額または最低額を記載する。条文に記載するときはこの事項に加えて資本金の額や発行株式数、発行可能株式総数も併記することが多い。 設立時にのみ必要な事項。 |
発起人の氏名または名称および住所 | 発起人について、個人なら名前を、法人なら名称を記載する。またそれぞれの住所も記載。 設立時にのみ必要な事項。 |
発行可能株式総数 | 会社が発行できる株式の数のこと。 当初の定款作成時に記載する必要はないが、遅くとも会社が成立するときまでに記載しないといけない。株式の引受状況、失権の状況などを見ながら検討を進める。 |
なお、会社の「公告方法」については旧商法にて絶対的記載事項として扱われていましたが、現行法では後述の相対的記載事項として区分されています。公告方法を定款で定めなくても問題はなくなり、そのときは官報が公告方法ということになります。
相対的記載事項
次のようなルールを設けるには、定款で定める必要があります。
- 株式の譲渡制限
- 株主総会の招集通知の方法
- 取締役会設置
- 監査役会設置
- 株券の発行
- 公告方法 など
絶対的記載事項ではないため、これらのルールを無視して会社設立をすることも可能です。しかしながら今後の会社運営のために重要な事項もたくさんあり、絶対的記載事項という基本的な情報だけだと不十分なケースも珍しくありません。
例えば「株式の譲渡制限」は、部外者が会社の意思決定に口出しをしてこないために重要なルールです。多くの中小企業は関係性のある身近な人物だけで株式を保有しており、株式が流動的ではありません。別途制限を設けなくても問題が起こるとは限りませんが、株主の数が増えてくると外部に流出するリスクが高まるため、譲渡制限を設ける必要性も高くなります。
任意的記載事項
次のようなルールは、定款でなくても有効に機能させることが可能です。
- 株主総会の招集時期
- 株主総会の招集権者
- 株主総会の議長
- 役員の員数
- 役員の報酬に関する事項
- 事業年度 など
これら任意的記載事項をあえて定款に記載することで、強い拘束力を持たせることができます。良くも悪くも、ルールを変更したくなっても簡単には変えられません。
ただし、任意的記載事項に該当する事柄を定めないからといって、完全に会社の自由な運用に任されるわけではありません。例えば「株主総会の招集時期」を定めない場合でも、会社法に則って、事業年度ごとの招集は必要です。また、「事業年度」を定款に定めない場合でも、2年や5年などと自由に決められるわけではありません。
当記事で解説したように、定款は会社にとって非常に重要な存在であり、いったん定めた事項を簡単に変更することもできません。そのため定款に記載する事項については専門家のアドバイスも受けつつ、慎重に検討を進めていくようにしましょう。