代表的な会社の種類として「株式会社」と「合同会社」が挙げられます。どちらもさまざまな事業を行うことができ、多くの場合どちらの会社を選択してもビジネスは始められます。ただ、それぞれ社員の立場や会社機関、監査体制、設立の手続などの面で違いがあります。
これらの基本的な違いを理解した上で、どちらにすべきか検討することが大事です。
社員の違い
株式会社の社員と合同会社の社員、両者の会社との関わり方に違いがあります。
株式会社の社員は株主のことであり、いわゆる「所有と経営の分離」における所有を担う立場にあります。経営を行うのは取締役であって、社員が経営に携わるとは限りません。この点、上場企業だとイメージしやすいです。誰でも出資を行い、その会社の株主になることができますが、直接経営を行うわけではありません。
一方、合同会社では所有と経営が一致しています。出資をして社員となった人物が経営にも直接携わります。合同会社では社員相互の信頼関係が重視され、社員同士の結びつきが株式会社より強いといえるでしょう。
ただ、実情を見てみると、株式会社と合同会社に常にこのような違いがあるとは言い切れません。合同会社については上記の通りですが、多くの株式会社は中小企業であり、小規模な株式会社では経営者と株主が一致している例も多いです。個別の会社に目を向けると所有と経営が分離していない株式会社も少なからず存在しています。
機関の違い
株式会社と合同会社には、機関の違いもあります。
1つは「代表」の機関の違いです。
株式会社の場合、“取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。”と規定されており、原則として、取締役が会社を代表する機関になっています。
これに対して合同会社では、原則として、業務を執行する社員それぞれが代表です。
「任期」についても違いがあります。
株式会社では、取締役の権限が強くなりすぎないよう、原則2年の任期が定められています。監査役についても原則4年という任期が定められています。
※非公開会社なら、取締役も監査役も、任期を10年まで伸ばすことが可能
これに対して合同会社では任期の定めがありません。社員が経営者でもあるため、任期を定めて権限に制限をかける必要がないからです。
「意思決定機関」の違いも挙げられます。
最終的な意思決定機関は、株式会社では「株主総会」です。
株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
引用:e-Gov法令検索 会社法第295条第1項
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
取締役会設置会社の場合、一部取締役会にその権限が移りますが、それでも定款変更などの重要事項については株主総会の決議が必要です。
合同会社の場合、社員と経営者が分離されていないため、常に社員に意思決定の権限があります。そこで、原則として、社員の過半数をもって会社としての意思決定を下すことができますし、常務であれば社員が単独で決定することもできます。
監査機能の違い
株式会社に適用されるルールの多くは、株主保護に配慮した内容となっています。取締役に任期を設けていることもそうですし、また、監査役や監査役会を設置できるという点にも特色があります。
監査役等を置くことで、取締役が違反行為等をしていないか、適切に経営を行っているか、といったことについてのチェック機能を働かせることができるのです。
合同会社の場合、社員が多くの役割を兼ねています。各社員が互いに監査の役割を担い、業務や財産に関する調査権限も持ちます。
業務を執行する社員を定款で定めた場合には、各社員は、持分会社の業務を執行する権利を有しないときであっても、その業務及び財産の状況を調査することができる。
引用:e-Gov法令検索 会社法第592条第1項
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
決算公告の違い
株式会社には決算公告の義務が課されています。会社債権者や株主に対して決算の内容を知らせないといけません。自社の経済状況を公表することになりますので、経営に対する緊張感も生まれます。
合同会社には決算公告の義務がありませんので、比較的負担が小さくて済みます。
設立手続の違い
株式会社と合同会社、どちらも設立にあたり「定款の作成」「出資の履行」「設立登記」をしないといけない点に違いはありません。大筋では同じ流れになるといえます。
ただ、株式会社の場合は株式の発行等についての手間が生まれますし、特に募集設立とするときには創立総会を開催しないといけないなど大きな労力を要します。
また、設立費用にも若干の差があります。
株式会社の場合、定款の認証が義務とされており、認証手数料が発生します。認証手数料は資本金の額等に応じて次のように定まります。
資本金の額等 | 認証手数料 |
---|---|
100万円未満 | 3万円 |
100万円以上300万円未満 | 4万円 |
300万円以上 | 5万円 |
設立登記の際納付が必要な登録免許税は、どちらも「資本金の額の0.7%」です。しかし最低額が、株式会社で15万円、合同会社で6万円、と差があります。
そのため設立のコストや手軽さだけに着目した場合は、合同会社に分があるといえます。
株式会社と合同会社の共通点
株式会社と合同会社には多くの違いがありますが、共通点も少なくありません。
例えば、どちらも資本金の額に制限がない点は同じです。株式会社は過去、最低額の定めが設けられていたのですが、現行法ではこれが撤廃され、ルール上は1円でも設立することが可能になっています。
合同会社でも「〇〇万円以上の資本金が必要」といったルールはありません。
社員が有限責任である点も共通しています。
事業が上手くいかず、会社が破産したとしても、社員は出資した額でのみ責任を負えば良いのです。そのため思い切った意思決定をすることができ、積極的にビジネスを展開することができます。
※社員が債権者との間で個別に保証契約を交わしている場合は、保証の責任は負う
その他、会社のできる事業内容に制限がないといった共通点などもあります。
株式会社の方が規模の大きな組織に適しており、小規模運営なら合同会社が適していると説明されることもありますが、合同会社でも規模の大きな会社はあります。一般的な傾向に捉われることなく、それぞれの性質をよく理解して自社に適した選択をすることが大事です。