相続財産が一定以上になると、相続税の申告義務が相続人あるいは受遺者に課されます。
そしてこの相続税申告は自分ですることができるのですが、「自分ですべきかどうか」はよく考える必要があります。自分ですることにも税理士に依頼することにもメリット・デメリットがあります。状況に応じてメリットとデメリットの大きさは変わってきますので、それぞれの良し悪しを理解した上で、現状におけるバランスを考慮して決断することが大事です。
この記事では自分で相続税申告をすることのメリットとデメリットを紹介していきますので、検討にあたっての判断材料にしていただければと思います。
相続税申告を自分でするメリット
相続税申告を自分で行う場合、依頼費用がゼロで済みます。
依頼先となる専門家を探す手間もかかりませんし、個人情報を第三者に伝える必要もありません。
これらのメリットについて詳しく説明していきます。
税理士報酬の負担がない
自分で申告をすることの一番のメリットは、「税理士に支払う費用がなくなる」という点にあります。
一般的には、相続財産総額の1%と設定していたり、○○万円未満はいくら、それ以上○○万円未満ならいくら、と設定していたりすることが多いです。
そうすると数十万円の負担が必要になることもありますので、これがゼロにできるのは大きなメリットです。
相続に強い税理士を探す手間が省ける
近隣を探せば税理士を見つけることはできるでしょう。
しかし全員が全員相続のプロというわけではありません。税のプロとして税理士資格が与えられていることに変わりはありませんが、実力は結局人によって異なりますし、何より得意分野が人それぞれ違います。
企業の税務を専門領域としている方もいれば、所得税を強みとしている方などもいます。
そのため相続に強い税理士を探す必要があります。そうなると近くで見つかるとは限りませんし、時間も手間もかかってしまいます。相続税の申告には期限が設けられていますし、相続開始後は相続税に関すること以外についても多くの手続を行う必要があります。
そんな中相続分野に強い税理士を探さなくてはなりません。これが省けるとなれば「面倒な作業の1つをなくせる」点でメリットがあるとも言えます。
個人情報を第三者に話さなくて済む
相続税の申告をするためには、遺産の内容やその大きさ、申告に係る個人情報も必要になります。
税理士に依頼して申告をしてもらう場合、これらを伝えなければなりません。
他方、自分で申告をする場合には第三者にこれらの情報を伝える必要がなく、その意味で手続に対する心理的ハードルが低いとも言えます。
またこのことに関連して、重大な情報を伝える以上、依頼する税理士も信頼できる人物でなくてはなりません。専門領域が相続であったとしても、実際に話をしてみた印象が悪いと、任せたくないという感情も出てくるでしょう。
再度税理士を探す手間もかかり、負担がかかってしまいます。
相続税申告を自分でするデメリット
相続税の申告を自分で行うことのデメリットとして、ミスの発生や節税が難しくなること、手間が多いことなどが挙げられます。
以下で詳しく説明していきます。
申告ミスが生まれやすい
税制は複雑です。
一般的にプロが行っている作業を自分で行わなければなりませんので、計算ミスも生まれやすいです。そして申告内容にミスがあると追徴課税を求められるなど、各種ペナルティを課されることになります。
そうなると余分にお金の負担が増すことになってしまい、税理士への依頼費用をカットした意味が薄れてきます。
また、申告手続を終えても安心できないというのも大きなデメリットです。
手間がかかる
税理士を利用しないことで税理士を探す手間がかからなくて済むと説明しましたが、自分で手続を行うとなればそれ以上の手間がかかります。
相続財産が増えるほどそれに対応して膨大な量の資料を準備する必要に迫られます。
申告期限にも意識を向けながら、他の相続手続も進めつつ相続税申告に対応するのは、体力的にも精神的にも大きな負担となるでしょう。
節税対策が困難になる
仮に申告自体がミスなくできるとしても、節税対策まで適切に実行するのは非常に難易度が高いです。
節税をするには相続の仕組みや相続税に関する特例や控除制度など、広範な税制の知識を持っていなければなりません。
よほど税制に精通した方でなければ期待する節税効果まで得るのは難しいと考えられます。
例えば小規模宅地等の特例を適切に適用させることができれば、宅地の評価額を大幅に下げることができます。これを利用できるかどうかは納税額にも大きな影響を与えます。
特に宅地は遺産の中でも最も大きな価額割合を占める傾向にあり、ここから生まれる相続税の額を下げることができれば相当の節税効果に繋がります。
相続財産の評価が難しい
現金や預貯金以外の多くの財産は、課税価格が明らかでないため、これを評価しなければなりません。
しかし一般の方は財産の種類に応じた評価方法を把握していないと思われます。ネットや書籍で調べればある程度情報は出てきますが、自信を持って適切な評価ができる方は少ないのではないでしょうか。
評価額の算定を間違えてしまうと納税額が増えてしまいますし、最悪の場合脱税の疑いをかけられてしまいます。
また、減価要因を把握して評価額を下げるという工夫をするのも大変な作業です。一つひとつの財産を適切に評価し、適法な範囲で減額していくにはプロの知見が必要となるでしょう。
メリットとデメリットのバランスを考えることが大事
税理士報酬がかかるとはいえ、負担すべき額は事案によってまちまちです。遺産総額の1%程度で設定しているケースも多く、手間や不備によるペナルティの問題も考えれば、費用対効果は大きいとも考えられます。
また、税理士に頼むことで節税効果を高めることができれば、依頼費用でマイナスになる以上の経済的恩恵が得られる可能性もあります。仮に依頼費用と節税効果でプラスマイナスゼロになったとしても、申告手続が楽にできたことや不備なく申告できたことを考慮すれば、全体としてはプラスになると考えることもできます。
このように、相続税の申告をすべきかどうかは、メリットとデメリットのバランスを考えた上で決断することが大切です。
そのバランスを左右する代表的な要因は、相続財産の大きさと種類の多さです。
相続財産が多いほど、財産の種別(不動産や有価証券、現金、預貯金などの別)が多いほど大変な作業となります。節税をするのも簡単ではなくなり、自分で申告するデメリットが大きくなる方へと傾きます。
逆に相続財産が少なく、そのほとんどが現金・預貯金であれば申告もそれほど大変な作業にはなりません。そうなると自分で申告するメリットが大きくなる方へと傾くでしょう。