相続財産には、不動産や預貯金といったプラスの財産だけでなく、借金や未払い金などマイナスの財産も含まれます。
被相続人に多額の負債が残っていた場合、そのまま相続してしまうと相続人が返済義務を負い、大きな負担となりかねません。
上記のようなリスクを避けるための手続きが「相続放棄」です。
今回は、相続財産に借金が含まれていた場合に相続放棄を選択する際の具体的な流れや、注意すべきポイントを解説します。
相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切相続しないとする手続きです。
プラスの財産(預貯金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金や未払金など)も含めて一切を相続しません。
民法第915条1項によれば、相続放棄は「相続開始を知ってから3か月以内」に家庭裁判所で申述する必要があります。
また、民法第938条によれば、相続放棄をすると最初から相続人でなかった扱いになります。
相続放棄を選択する際の具体的な流れ
相続放棄の流れは、以下のとおりです。
①相続財産の確認
②相続放棄を決意する
③家庭裁判所に申述する
④相続放棄の受理
⑤他の相続人や債権者への対応
それぞれ確認していきましょう。
①相続財産の確認
まずは、被相続人が残した財産を調べ、プラスの財産とマイナスの財産を整理します。
- 預貯金や不動産、株式などの有無を確認
- 借金、ローン、未払い金などの負債も確認
財産調査をすれば、「放棄すべきかどうか」の判断材料が得られます。
②相続放棄を決意する
民法第915条に基づき、「相続が始まったことを知った日から3か月以内」に判断をしなければなりません。
この期間を「熟慮期間」と呼びます。
もし調査に時間がかかる場合は、家庭裁判所に申立てをして熟慮期間の延長を求めることも可能です。
③家庭裁判所に申述する
相続放棄は、家庭裁判所に「相続の放棄の申述」を行います。
提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
④相続放棄の受理
裁判所で受理されると「相続放棄申述受理通知書」が交付されます。
上記により、法的に相続放棄が成立します。
⑤他の相続人や債権者への対応
自分が相続放棄をしても、他の相続人は引き続き相続人となります。
トラブルを避けるために、相続放棄をした旨を他の相続人へ伝えてください。
また、債権者から請求が来た場合には、裁判所からの受理証明書を提示することで対応できます。
相続放棄をする際の必要書類
共通して必要になるのは、以下の書類です。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票もしくは戸籍附票
- 申述人(放棄するひと)の戸籍謄本
加えて、申述人の立場によって必要な書類が異なります。
申述人 | 必要書類 |
配偶者 | ①被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 |
子・代襲者 | ①被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 ②代襲相続の場合、本来の相続人の死亡が記載された戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 |
父母・祖父母など | ①被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 ②被相続人の子やその代襲者で死亡している方がいる場合、その方の出生から死亡までのすべての戸籍謄本 ③被相続人の直系尊属に死亡している方がいる場合、その直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本 |
兄弟姉妹・代襲者 | ①被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本 ②被相続人の子や代襲者で死亡している方がいる場合、その方の出生から死亡までの戸籍謄本 ③被相続人の直系尊属の死亡が記載された戸籍謄本 ④代襲相続の場合、本来の相続人の死亡が記載された戸籍謄本 |
上記に加えて、必要に応じて裁判所から追加書類の提出を求められる可能性があります。
相続放棄を行う際の注意点
相続放棄を行う際は、以下のポイントに注意してください。
- 一部の借金のみの放棄はできない
- 相続財産を処分すると放棄できなくなる
- 他の相続人や債権者への影響がある
- 書類不備・周知不足によるトラブルがある
それぞれ簡単に解説します。
一部の借金のみの放棄はできない
相続放棄は「相続人としての地位そのものを放棄する」行為であり、財産の一部だけを放棄して一部だけを相続することはできません。
プラスの財産があっても、放棄すれば借金も含め一切の相続権を失います。
相続財産を処分すると放棄できなくなる
相続財産を売却したり、預金を引き出すなど「処分」にあたる行為をしたりすると、単純承認とみなされて放棄できなくなる場合があります。
判断に迷うときは処分を控え、専門家に相談するのが安全です。
他の相続人や債権者への影響がある
自分が相続放棄をすると、次順位の相続人(子が放棄すれば親、親も放棄すれば兄弟姉妹)へ相続権が移ります。
思わぬ親族に借金の負担が及ぶ可能性があるため、家族間での十分な話し合いが必要です。
書類不備・周知不足によるトラブルがある
相続放棄は裁判所に正式に受理されてはじめて効力を持ちます。
申述書や戸籍関係の添付書類に不備があると、差し戻しが必要となり、期限を過ぎて無効になるリスクもあります。
また、他の相続人に放棄の事実を伝えないと、遺産分割協議などで思わぬトラブルが生じることもあるため注意してください。
まとめ
相続放棄は、相続人が被相続人の借金やマイナス財産を背負わないために有効な手段です。
ただし民法に定められているとおり、手続き上のルールが細かく存在します。
少しでも不安がある場合は、専門家に相談して、確実かつスムーズに手続きを進めてください。