相続は誰にでも起こり得るものですが、相続税の納付や申告に関しては「誰にでも必要なこと」と言い切ることはできません。相続税の申告が必要になる人・不要な人の分かれ目はいくつかあり、当記事では4つの基準としてこれらを説明していきます。身近な方が亡くなったという場合は参考にしていただければと思います。
基準1:財産の取得
そもそも相続税とは相続や遺贈により財産を取得したときに課税機会がやってくるものです。
贈与税なら財産の贈与を受けたとき、所得税なら所得を得たとき、初めて課税が問題となります。
相続税でも同様に、相続をきっかけとする財産の取得があったときに限り課税は起こるのです。そこで身近な方が亡くなったというだけで親族の方などに相続税の納付や申告が求められるわけではありません。最低限、相続等を原因に財産の取得がなければ納税も申告も気にする必要がありません。
ただし、相続前に受けた贈与であっても相続税の計算に含めないといけないケースがありますので要注意です。例えば相続開始前3年以内に行われた贈与は、相続税の計算に含めるとするルールが規定されています。
また、「相続時精算課税制度」を利用して贈与を受けていたときも、相続時に財産を取得していなくても申告等が必要になる可能性があります。同制度は、一定額まで贈与税として処理するのではなく相続税の課税対象として処理するための制度です。
亡くなった方から過去に贈与を受けたことがあるという方は注意をしておきましょう。
基準2:基礎控除額の大きさ
相続税申告の要否を分ける基準の中でももっとも重要といえるのが「基礎控除額」です。相続や遺贈などで取得した財産がある場合でも、そのすべてが課税対象になるわけではありません。
相続税の計算過程ではまず遺産の総額を明らかにし、そこに基礎控除を適用します。この基礎控除後の価額が「課税遺産総額」と呼ばれ、相続税の課税対象となります。裏を返せば、遺産の総額が基礎控除額以下であれば課税対象の価額が0円ということになり、納税はもちろん申告も行う必要がなくなります。
基礎控除額の大きさですが、次の計算式で簡単に求めることができます。
基礎控除額 = 3,000万円+(法定相続人×600万円)
法定相続人が1人でもいれば3,600万円、法定相続人が4人いる場合には5,400万円もの控除が可能です。実際、相続税は多くの方が納付するものではなく、1割程度の方しか納付は行っていません。それは基礎控除額がこれだけ大きいということが関係しています。
基準3:適用を受ける控除の内容
基礎控除額を超える遺産があるとき、相続税の申告が必要になる可能性はかなり高くなります。ただし、その時点では未だ確定には至りません。その後の計算にて、相続人等が各自で利用できる税額控除の適用を受けることで納付額が0円になる可能性が残っているからです。
例えば未成年者であれば「未成年者控除」の適用を受けることが可能で、成人に達するまでの年数に応じた金額が控除可能です。「障害者控除」も85歳に達するまでの年数に応じた控除が可能。さらに短期間で連続して相続が起こったときに「相次相続控除」の適用を受けられるケースもあります。
これらの税額控除により納付額が0円になる場合、相続税の申告も必要ありません。
一方、税額が0円になるときでも、次の控除制度を利用するときは申告をしなければなりません。
- 配偶者控除
- 贈与税額控除
- 外国税額控除
- 小規模宅地等の特例
- 農地の納税猶予の特例
- 特定の団体に寄付をしたときの特例 など
特に配偶者控除や小規模宅地等の特例は節税の効果が大きく、利用する機会も多いです。計算した結果、税額が0円になったとしても申告は行うようにしましょう。
基準4:納税額の有無
最後に、当然のことながら、納めるべき相続税が発生したときは相続税の申告も行う必要があります。
申告が不要な控除を利用したとしても、結局納付が必要となるのなら申告は欠かせません。「なぜその金額になったのか」ということを申告書の作成により報告するためです。
相続税の申告を行うためには多数の書類を準備・作成しなければならず、大変な作業となるでしょう。計算ミスが起こるリスクも考慮し、できるだけ税理士に依頼することが望ましいです。