将来発生する相続を円滑に進めるため、そして相続税の負担を軽減するためにも相続対策は有効です。ここではその重要性について知っていただくために、「相続対策を進めておくことで得られるメリット」に焦点を当てて紹介していきます。また、メリットを得るために必要な対策方法についても併せて紹介しています。
遺産分割が円滑に進められる
相続対策を進めておくことで、遺産分割が円滑に進められるようになります。相続人が1人であれば財産の取得割合など細かく考慮する必要もありませんが、複数人の相続人がいるときは分割方法について話し合わなくてはなりません。これを「遺産分割協議」といいます。
誰がどの財産を取得するのか、この協議がなかなか進められないと名義変更手続や相続税の申告手続も対応が遅くなってしまいます。
方法①遺言書を作成する
遺産分割を円滑に進めるための相続対策として「遺言書の作成」が挙げられます。
法律に従い適切な形式で遺言書を作成することができれば、そこに記載された内容に法的な拘束力が生じます。相続人の全員で意見をそろえない限り、遺言通りに遺産分割を行うことになります。
そこで遺産分割の方法についても遺言を残しておけば、相続人らが考えるべき事項が減り、遺産分割の手続も円滑に進めやすくなります。
方法②生前贈与を行う
「生前贈与」も遺産分割を円滑化するために有効な相続対策の1つです。
生前贈与とは相続前に行う贈与のことで、被相続人となる方自身が贈与の手続に関与できることから、確実に財産を渡すことができます。遺産の先渡しであるとして受贈者の相続分は調整されますが、引き継いでほしい特定の財産があるときは有効な手段です。
また、生前贈与した財産に関しては遺産分割方法で悩む必要がなくなりますのでその意味でも遺産分割協議の手間が削減されます。
方法③家族信託を活用する
「家族信託」の活用も検討してみましょう。
家族信託とは家族に財産管理を任せるときの信託であり、遺言書では実現できないきめ細かな財産承継も実現できます。また、信託財産となった財産は被相続人から独立し、基本的には遺産を構成する財産として扱われません。そのため遺産分割協議が必要な財産の割合は少なくなり、信託財産に関しては生前に被相続人が契約で定めた通りに運用していくことができます。
相続税の負担が減る
相続対策を進めておくことで、相続税の負担を減らすこともできます。相続税は取得した遺産の大きさに対応して課税される税であり、相続した財産の価額が大きいと数百万円、数千万円もの税金を納める義務が課されることもあります。
しかし事前に対策を打っておけば、相続人にかかる税金の負担を軽減させられ、安心して財産を取得してもらうことも可能となります。
方法①生前贈与を行う
相続税の負担を減らす有効な手段の1つが「生前贈与」です。贈与をした財産は相続財産ではなくなりますので、贈与をした分、相続税が課税される範囲も狭くなるのです。
ただし贈与をしたときは贈与税が発生しますので、贈与税に対する対策も必須です。110万円の基礎控除を有効活用したり、教育資金を一括贈与したときの非課税特例を使ったり、工夫をすれば税負担は下げられます。このときは税制に対する高い専門性が求められますので、税理士に相談してから取り組むことをおすすめします。
方法②生命保険を活用する
「生命保険の活用」も相続税の負担を減らすために有効な手段の1つです。保険料として金銭を納めるほど遺産は少なくなりますし、その保険料に対応して特定の人物が保険金を受け取ることができるためです。
生命保険金については純粋な相続財産ではないもののこれと同等の扱いを受けますが、非課税枠も設けられており、一定額まで非課税で受け取りができるのです。非課税枠が使えなければ一般的な相続財産と同じように相続税を計算しないといけなくなりますが、法定相続人の数が多いとほぼ課税されることなく受け取ることも可能です。
非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で計算されますので、子どもが2人で相続する場面であれば1,000万円の生命保険金が非課税で受け取れることになります。
方法③現金・預金も残しておく
「現金や預金もある程度残しておく」ことが相続税に関する負担を減らすことにもつながります。ただしこれは納税資金の負担を軽減するための手段です。
基本的には現金・預金だと節税対策を取るのが難しいのですが、相続税の納税が避けられないときはその納税をするための資金を残しておくことが相続人のためになります。もし一切の納税資金が残っていなければ、相続人は自らの手元にある現金・預金から負担をしないといけなくなります。
相続手続で揉めにくくなる
相続対策を進めておけば、相続手続で揉め事が起こるのを避けやすくなります。
相続手続に際して家族間で揉めることも珍しくなく、これまで良好であった関係性も相続をきっかけに悪化する危険性があるのです。しかし以下で紹介する対策を事前に打っておくことでトラブルが起こる可能性を少しでも下げることができます。
方法①家族間でよく話し合っておく
法的な効力が生じる、特別な手続ではありませんが、「家族間で相続についてよく話し合っておくこと」もとても大事です。
例えば遺言書や生前贈与によって特定の人物に財産を渡すことは可能ですが、その他の人物が不満を持つおそれもあります。ただ、事前に事情を話して納得をしてもらっていれば、多少の不満が残っていても大きなトラブルにまでは発展しにくくなります。
また、相続に関する話し合いでなくても、普段から密にコミュニケーションを取って関係性を良くしておくことでもトラブルは避けやすくなります。
方法②遺言執行者を定めておく
遺言書を作成するときは「遺言執行者も定めておくこと」でより円滑に相続手続を進められるようになります。遺言執行者はその名の通り遺言書に記載された内容を実現するための人物で、遺言書でその仕事を任せる人物を指定することができます。
財産の扱い、名義変更の手続等でもたつくリスクを避けやすくなりますし、相続開始後の財産管理で揉める危険性も下げられます。
方法③遺留分を放棄してもらう
遺言書を使った遺贈、生前贈与により特定の人物を優遇することはできますが、一定の相続人には遺留分と呼ばれる、最低限留保された取り分があります。遺留分の主張により受遺者・受贈者が金銭を支払わないといけなくなることもありますので、この場合は事前に「遺留分の放棄をしてもらうこと」も検討しましょう。
もちろん、遺留分権利者の意思に反して権利の放棄を強制することはできません。よく話し合って納得を得る必要があります。しかし生前に家庭裁判所で遺留分放棄の手続をしておけば、後になって「やっぱり遺留分を請求したい」と考えて請求されてしまう事態を避けることができます。