事業の立ち上げは「法人」「個人事業主」のどちらでもすることができます。しかしこれら事業主体の違いは今後の活動にも影響を与えますので、あらかじめよく考えて選択する必要があります。
ここで双方の特徴を理解し、最適な形で事業を始めましょう。
個人事業主とは
「個人事業主」とは、事業主体が自然人である場合の呼び方です。自然人とは人間のことであり、組織のような概念的なものではありません。会社やその他団体に属さず、独立して事業を営む者を指します。
個人事業主としての権利義務は自然人そのものに帰属しますので、例えば個人事業主が借入をしたときは、事業を辞めたとしてもその方に返済の義務が残ります。
他に「自営業」や「フリーランス」などの呼び方もあります。使う言葉によって含まれている意味合い、ニュアンスは異なりますが、いずれも個人事業主であることに変わりはありません。
法人とは
「法人」とは、法律に定められた要件を満たして設立される、権利能力を持つ団体のことです。権利義務が帰属する主体として法律上与えられた人格ですので、自然人のように現実に物体として何かが存在しているわけではありません。便宜上の存在です。
法人を設立した場合、仮に経営者1人だけの会社だとしても、経営者個人と法人は別人格です。法人の持つ権利や義務は経営者個人に帰属しません。そのため通常、法人の持つ債権を経営者が個人的行使することはできませんし、法人の債務について経営者個人が弁済を求められることもありません。
※経営者が当該債務について保証をしているときは保証債務に基づく責任追及は起こり得る。
また、法人には種類があります。
- 株式会社
- 合同会社
- 合資会社
- 合名会社
- NPO法人
- 一般社団法人
- 一般財団法人 など
同じ法人という枠組みでも、種類によって特徴は異なっています。個人事業主とよく比較される、設立例の多いビジネスの主体としては「株式会社」が挙げられます。また近年は「合同会社」が設立される例も増えてきています。
それぞれ次のような特徴を持っています。
株式会社の特徴 | 合同会社の特徴 |
---|---|
・営利法人(法人の構成員に利益を分配できる法人) ・法人の構成員は株主 ・株主の流動性は高い ・株主の責任は出資の範囲に限る ・定款の認証が必要であるなど設立手続が比較的大変で費用負担も大きい ・株式の発行により大規模な資金を集めることもできる |
・営利法人(法人の構成員に利益を分配できる法人) ・法人の構成員は社員 ・社員の流動性は低い ・社員の責任は出資の範囲に限る ・定款の認証は不要で、設立費用の負担も比較的小さい ・社員間の結びつきは強く、小規模での運営に向いている |
個人事業主と法人の違い
個人事業主と法人は、設立の方法や税務の内容、事業の規模感や社会的信用の得やすさ、そして経営の方法に大きな違いがあるといえます。これらの違いを次の表にまとめました。
個人事業主 | 法人 | |
---|---|---|
設立方法 | ・開業届を税務署に提出する ・設立費用はかからない |
・①定款の作成、②出資の履行、③商業登記の申請が必要 ・設立費用が数十万円程度は必要 |
税務 | ・所得には所得税が課税される ・所得税の税率は5%~45%で、所得が大きいほど負担割合も大きくなる ・所得がなければ住民税も非課税 |
・所得には法人税が課税される ・法人税の税率は15%~23.20%で、所得が大きくてもそれ以上負担割合は大きくならない ・所得がなくても住民税がかかる ・退職金など、経費にできる幅が広い |
事業規模 | ・1人で活動するなど小規模の事業に多い | ・大人数で活動することも可能で、大規模な事業展開も比較的しやすい |
社会的信用 | ・登記や資本金は不要で設立が簡単な反面、社会的な信用度で法人に劣る | ・法人の方が社会的な信用度が高い傾向にあり、大きな契約や融資を受ける際に有利となる |
経営方法 | ・個人事業主が1人で意思決定する ・方針をスピーディに決めることができ、機動力が高い |
・複数人で意思決定をするため議決を取って決断することが多い ・意思決定までの時間が長くなるが、より精度の高い判断が望める |
そのため売上の予測、利益の予測を立てて、どちらにすべきかをよく考える必要があります。
個人事業主が法人化することも可能
売上や利益の大きさは変動するものです。まったく同じ金額で推移することはなく、所得が大きくなる年もあれば小さくなってしまう年もあるでしょう。
個人事業主で活動するのか法人設立をするのか、迷うこともあるかもしれません。もし個人事業主としても事業を行うことができるのであれば、いったん個人事業主として活動するやり方もあるでしょう。その後業績が伸びてきたときに法人化をすることもできるためです。
そうすることで個人事業主と法人、双方の良さを享受することができます。
一方で最初から大きな利益が出せる見込みがなくても、後々事業を大きくしていく予定があるなど、将来的に確実に法人になるつもりであれば初めから法人を設立しておいた方が手間も少なくて良いかもしれません。
法人化できるといっても事業主体としての連続性はなく、異なる人格が事業を始める形になりますので、法人化に際して様々な手続や手数料も発生します。契約関係の引き継ぎも大変です。
引き継ぎをしないといけないデメリットも考慮した上で、判断をすると良いでしょう。